ヨレンタの言葉(第20話)
「今を生きる人には、過去の全てが含まれてる」
「なぜ人は記憶にこだわるのか」
「なぜ人は個別の事象を時系列で捉えるのか」
「なぜ人は歴史を見出すことを強制される認識の構造をしているのか」
「私が思うにそれは、神が人に学びを与えるためだ」
「つまり歴史は、神の意志のもとに成り立ってる」
「歴史を確認するのは、神が導こうとする方向を確認するのに等しい」
「だから過去を無視すれば、道に迷う」
「もし今の私が父と対峙したら、道を阻まれたらどうなるだろうって」
「考えただけでそれは人生最悪の瞬間で、混乱して平静を失うと思う」
「でもその時にこそ、正しいと思った選択をしなきゃいけない」
「きっとその一瞬の選択のために、私の数奇な人生は存在する」
「積み上げた歴史が私の動揺を鎮めて、臆病を打破して、思考を駆動させて」
「いざって時に引かせない」
「全歴史が私の背中を押す」
作者の魚豊さんは、なぜこれを知っているのだろう。
概念をとても分かりやすく、しかも情熱的な言葉で表現してくれた。
まさに天才だ。

▲昼の太陽と水面
▼文章・写真:金藏直樹(音楽家/写真撮影/映像制作)