日本の唱歌・童謡「浜辺の歌」

今回は、有名な夏の歌の一つである「浜辺の歌」を解説いたします。

『浜辺の歌(はまべのうた)』は、1916 年に発表された作詩:林古溪さん、作曲:成田為三さんによる日本の唱歌・歌曲です。

日本の歌百選にも選ばれています。

制作経緯

古溪さんは、東京音楽学校(現東京藝術大学)時代に、学友会が発行する雑誌「音楽」に、三節からなる「はまべ」という詩を発表しました。

雑誌編集者の牛山充さんは、この詩に曲をつけるために、作曲家の山田耕筰さんから当時、彼の弟子であった成田さんを紹介され、成田さんが作曲をすることになりました。

成田さんは、当時23歳だったそうです。

詩の舞台となった「はまべ」に関しては、古溪さんが少年時代を神奈川県の辻堂で過ごしたことから辻堂海岸を思いだして書かれたとする解釈が多いですが、証拠はないそうです。

3番の歌詞は、難解とされていますが、元々4番まであった歌詞を出版社側が3番にくっつけたという説があるらしいです。

1941年に李香蘭(山口淑子)さんの歌唱でコロムビア・レコードから発売。

成田さんは、第二次世界大戦中、東京大空襲により東京の自宅は全焼し、故郷である秋田へ帰郷しました。

終戦後、再び東京に戻りますが、電車を降りたところで突如体調を崩し、そのまま帰らぬ人になってしまいました。

死因は脳溢血だったそうです。

成田さんは戦後、復興していく日本を見ることは出来ませんでしたが、弟子の岡本敏明さん(文部省図書編集委員)によって、戦後の音楽教科書に『浜辺の歌』が掲載されることになり、今日に至るまで教科書に載り続けています。

歌詞は、古溪さんが不本意に掲載された3番の歌詞を好まなかったため、2番までの掲載となっているそうです。

作詞者について

林古溪(はやし こけい)

1875年7月15日〜1947年2月20日 東京都出身
歌人、作詞家、漢文学者、立正大学教授、東洋大学講師

江戸時代初期の朱子学派儒学者である林羅山の家系。

幼少時代を神奈川県愛甲郡古沢村(現厚木市)で過ごしたそうで、「古溪」の名はこの古沢村が由来だそうです。

余談ですが、厚木市は私の地元である秦野市のすぐ近くです

古溪さんは、10歳の時に父親を失い、池上本門寺に入って修行。

さらに哲学館(現東洋大学)に入学し、国漢を学びました。

卒業後、30歳を過ぎてから東京音楽学校(現東京藝術大学)でも学び、そこで雑誌『音楽』の編集をしていた牛山充さんと知り合い、「はまべ」をはじめとした詩歌を寄稿しました。

作曲者について

成田為三(なりた ためぞう)

1893年12月15日〜1945年10月29日 秋田県出身
作曲家

秋田県にて役場職員の息子として生まれました。

秋田師範学校(教員になるための学校)を卒業後、毛馬内小学校で教鞭を一年間執るも、 上野にある東京音楽学校に入学しました。

在学中は、ドイツから帰国したばかりの作曲家「山田耕筰」さんの弟子となり、作曲の修行を積みました。

卒業後は、小学校の音楽の先生をしながら作曲を続け、雑誌「赤い鳥」に多くの童謡を発表しました。

雑誌「赤い鳥」では、それまでは詩のみが発表されていたところに、成田さんの「かなりや」が、初めて楽譜付きで掲載されました。

これが日本の童謡の最初の曲になったそうです。

その後、28歳からドイツに4年間の作曲留学を経て、帰国後は学校で教えながら「和声学」などの著作も手がけました。

その他に、ピアノ曲や管弦楽曲などがありましたが、その多くは戦時中の空襲で失われています。

研究者の調査では、作品数はこれまでに300曲以上が確認されているそうです。

「歌曲・童謡の作曲家」という印象が強い成田さんですが、二つのローマンスや交響曲「東亜の光」などの管弦楽曲やピアノ曲なども数多く作曲していたそうです

調性と拍子

変イ長調(A♭)

8分の6拍子

歌詞

あした浜辺を さまよえば
昔のことぞ しのばるる

風の音よ 雲のさまよ
寄する波も 貝の色も

ゆうべ浜辺を もとおれば
昔の人ぞ しのばるる

寄する波よ 返す波よ
月の色も 星のかげも

はやちたちまち 波を吹き
赤裳(あかも)のすそぞ ぬれひじし

病みし我は すでにいえて
浜(はまべ)の真砂(まさご) まなごいまは

歌詞の補足

「あした」=朝
「ゆうべ」=夕方
「しのばるる」=疎遠になってしまった人を懐かしみ、思い出す。
「もとおれば」=歩いてうろうろすること
「はやち」=急に激しく吹きおこる風
「赤裳(あかも)」=女性の赤い装束や着物
「ぬれひしじ」=びしょ濡れになること
「真砂(まさご)」=白いサラサラの砂
「まなご」=愛する子ども

この記事を書いた人

金藏 直樹

作編曲家・ピアニスト/映像クリエイター/フォトグラファー/DNA心理学
貧しい離婚家庭で育ち、独学で音楽活動を始め、今日に至っています。
【主な作品】舞台『鬼切丸伝(主題歌)』ミュージカル「星の王子さま」「銀河鉄道の夜」映画『それぞれのヒーローたち』